ロクリンシャ

三柱の人狼とそのなかま達による体当たり座談会系集団の活動報告(公式HP:rokurinsya.wixsite.com/rokurinsya & 公式Twitter:https://twitter.com/rokurinsya007)

ロクリンシャ、それは三柱の人狼とそのなかま達による体当たり座談会系集団の活動報告
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文章の葬式

 日記の代わりのようなものとして小説を書いてみよう、と思い立ってからはや数年。何の結果にもなってはいないが、それでもなんだかんだ時々小説を書いていた。まとまった形になり、しかしながらほとんど誰にも読まれず新人賞の藻屑と化して埋没していったいくつかの投稿/完成作は別にいい。しかしフォルダを漁っているとやたら目に付く、完成することなく冒頭だけ書いて投げ出してしまったいくつかの文章群をこのブログで公開することで、私的に弔ってあげたいのである。盆ですから。記事も増えて行きませんしいいですよね♪

 

 

1 魚

「元気に動けるぞ、って感じがするうちは、しばらくやっていようかな」

口に出してみると、それは当然なことのように思えた。ま、それはそれとして。ある魚についての記憶を残しておきたい。以前、吉祥寺の飲み屋で食べた、やうらぎと呼ばれる魚の煮付けが忘れられないのだ。頭も尾も取れて胴だけが出てきたので姿形はわからなかったが、魚の煮付けにしては珍しくポリポリとした歯触りが妙に楽しく、それを目当てにしばらく通った。しかし一度食べた以来、僕が転勤でその辺りを離れるまで、ついに御目にかかることができなかった。いつからかメニューからもなくなっていた。店主に顔を覚えられてから久しくなった頃に訊ねてみると、やうらぎは知り合いが釣ってきた魚で、館山の先の沖でごくまれにかかるらしいです、とその店主は静かに話した。館山。そこは僕にとっては縁も所縁もない土地で、なんとなく、そのままどうでもいいような気持ちになってしまった。やうらぎについては本当にそれっきりだった。

 

2 愛

「愛がね、愛がないとどうにもいけなんだよね。アイがさ」

「愛ですか」

 はあ、と内心の困惑を隠さずついた僕の相槌に、セリザワさんは「わかってない。それ以前にわかってくれようとしてないな」とがぶりを振った。話が見えてこないのだから仕方ない。セリザワさんは僕がフリーターをしていた頃に、当時のバイト先だった居酒屋の常連客だった男である。その居酒屋のレジの後ろにぶら下がっているホワイトボードには、『四十六日連続ご来店 セリザワ様』という、誰の目にも等しくしょうもなく映る妙な記録のよれよれ文字が今でも残っている。僕らは比較的歳が近かったこともあって、そう経たずにときどきつるむようになった。年を跨いで三月ぶりに彼と飲んでいるのだが、毎度毎度の互いの近況報告もそこそこに、セリザワさんは最近ハマったらしいピンサロという風俗についての不満を僕にまくしたてているのだった。

「風俗嬢のサービスが悪かったんですか?」

「いや、みんなちゃんサービスはしてくれるよ。素人の女の子とシたことないから比べられないけど、たぶんみんな上手いよ。そこはプロいよ。でもそういう話じゃないんだよなあ」

「はあ」

「テクニックとかに関しては確かにプロなんだけど、なんていうんだろうなあ。俺とのプレイに対して、全力でいてくれてないのがわかっちゃうんだよね。ヌけばいいんでしょ?みたいな感じがどうもさあ」

「そりゃそうなんじゃないんですか。だって風俗ですよね?」

「風俗に愛を求めるのっておかしいのか?」

 どうなんだろう。愛を求める、愛を欲することに、愛することに、良いも悪いもおかしいもないような気がしてきた。おそらく、僕にはこれが愛だというものはわからない。ひとつわかるのはセリザワ、無言でからあげにレモンをしぼるのはやめろ。愛についてはそれからだ。順序がある。

 

3 ベーシック・スタイル

 とりわけ工夫のないまま大人になってしまった。都営地下鉄の規則正しく不規則な揺れに身体を任せているうちに生まれた、このさみしい感慨は、私の頭から下半身へと静かにながれ落ちて、しばらくすると、そのままうやむやになっていった。起伏のない生涯を求めているような、ほどよい刺激を求めて流動的にさまっているような、いないような。何度考えてみてもわからなかった。求め続けることは難しく、考えないで過ごすことは簡単、というよりも楽であり、連綿と続いていく、力のいらない重力に引っぱられるがまま今日という日をやり過ごし、変わり映えのしない、それでいておそらくかけがえのないあたらしい朝がやってくる。

東京で迎える夏の盛りも幾度目かになる。年齢を重ねるにつれて節目のような意識が薄れていく。大気が湿り気を帯びて、立っているだけでじっとり汗ばむ都心の暑さに慣れるにしたがって、何も起きないことの幸福感を味わえる心の渇きを感じる。このまま枯れて、死んでいくのだろうか。車窓に映り込んでいる、色を失った私と目が合う。吊革に掴ったまま、しげしげと私を観察しているガラス向こうの私は、少なくとも私よりは向かうべきこれからを持ち合わせているように見えた。

 

 

以上三つの書きかけ地縛霊。合掌してやってください。

写真は以前勤めていた会社を退社する際に頂いた花束。

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(ミツボリ)